森羅万象、これすなわち振動なり。
研究者の父の口癖だった。
思えば、私は人生に二度、父を抱きしめた。
一度は救急車の中で、二度目は病院のベッドの中で。
病院の私の腕の中で、父は逝った。
その後、不思議なことが幾度かあった。
通夜の晩、父の足音が衣擦れと共に聞こえた。
私は起きて、姉を呼んだ。
それから、二人で、父の思い出話をした。
父は、折に触れ、返事をしてくれた、
形見の腕時計がチチ、チチ、と鳴るのだった。
父を見送る前夜、ホテルで父の遺骨をそばに置き、
ろうそくを灯し、ラジオをつけた。
音楽好きの父のために。
何と言うことだろう!
流れてきた音楽は、「蛍の光」だった。
それは、エンドレステープのように
一晩中流れ続けた。
私はその夜、遺骨を抱きしめながら、
寝ずに夜を明かした。
ろうそくは、不思議なことに
朝まで消えずに灯っていた。
音楽という振動、
ろうそくの揺らぎ、
何よりも魂の波動で、
父は、永遠のいのちを
私に伝えてくれていた。
目に見えない存在の不思議を
肌で感じる体験だった。
今も父の口癖を思い出す、
「森羅万象 これすなわち振動なり」
(2021年3月9日 父の日に投稿)
(訳者)