翻訳者のブログ

著者雑感 ~母の俳句~

俳句をよく詠んでいた母のノートが見つかった。
17句もあった。句集に掲載されていたものと未発表のものを
あわせて、ここにご紹介したい。
いずれも父を亡くした後に詠んだ句だ。
母がとても懐かしく、愛おしい。

   凍て月の真下に光る涙星 (父が倒れた正月夜)

   初茜踏み出す一歩わが傘寿
   賜わりし今を生きなむ西行忌
   投げられし黄金の鎌春三日月
   卯浪立つ八十路の自立あるがまま
   野あそびの車座熱き紅茶かな
   寂という夢色に咲く鉄線花
   風流る至福のひととき夏座敷
   序列なき訣れ身に入む弟よ
   光ゲ淡し空に孤高の十三夜
   眼閉ず木の実時雨の闇深し
   キルト刺す独りの卓の秋果籠
   さびしさは言わず文書く梅雨だたみ
   暮れなむとくちなしの白たしかなり
   束の間の青春の香レモン切る
   亡母(はは)と乗りしメリーゴーランドの五月来る
   梅雨湿り畳に光る落し針

以上、山川菊枝作

(2021年12月7日 姉の誕生日に)