寝たきりの母の左半身は
麻痺して動かなかった。
だけど、右腕はよく動き
いつも手を、ぎゅっと握りしめていた。
あまりの強さに
掌に爪が食い込むほど。
掌が傷つくのを恐れたわたしは
母の右手にトレペの芯を握らせた。
トレペの芯には、
祈りの言葉(めでたし)を
書きつけて。
でも、着替えや体位交換の度に
トレペの芯は床に放り出されていた。
母が手を離すと、ただの不要なトレペの芯。
そんな時、
立ち寄った教会に、
かわいいユニコーンのぬいぐるみが
置き去りにされていた。
握りしめるのにぴったりの大きさ!
落とし主が現れないのを祈った。。。
一週間以上経っても、それはそこにあった。
わたしは落とし主の稚児に感謝して、
それをもらった 母のために。
以来 母は毎日嬉しそうに
そのユニコーンを握りしめていた。
お蔭さまで 母の右手は無事。。。
(2022年6月30日)