ある友へ、
。。。それにしても、父の最期を看取ることができ、しかも最後までそばに居て父を送らせて貰えたことは、子供として親から受ける最高の贈り物だったのではないかと思い、感謝しています(咳で苦しむ父を背中から抱きかかえていた間に心臓発作を起こしたのでした)。
人をこの世から別の世界に送る、死という厳粛な別れは、もう一つの生の始まりであることをつくづく感じております。千葉敦子というジャーナリストが、別れや喪失は一つの死で、一つずつ死を死んで、死を重ねて最後の死に向かうのだ、というようなことを言っていましたが、別れや喪失に再会の楽しみ、失ったお蔭で得ることのできる恵みがあるのと同じように、最後の死にも素晴らしい再会の楽しみがあることを、今心から信じることが出来ます。私たちの年齢からいっても、これから悲しい送別の時が多くなると思うのですが、”再会の楽しみ”を心に抱いて耐えることが出来るような気がします。それは本当に慰めです。これからは一つ一つの小さな死を、悔いを残さないように大切に生きて迎えたい、そう思っています。
。。。
(1993年2月5日の日記より)